久保建英の東京オリンピックでの戦いを総括する

久保建英の東京オリンピックでの戦いを総括する

東京オリンピックのサッカー競技が閉幕した。

日本はメダルしかも半世紀以上前に獲得した銅メダルを超える結果を目指して戦ったが、残念ながら力尽きて4位に終わった。

しかしながら、客観的に見れば大いに健闘したと言っていいだろう。

決して各チームともベストメンバーではなく、日本のように準備も十分ではなかったことから、開催国日本にとっては大いにチャンスのある大会であっただけに残念ではあるが、それでも日本より経験も能力もある国・チームばかりが相手であった。

少なくとも悲観するような結果ではないだろう。

そうした日本にあって、エースとしてチームを牽引したのは久保建英だ。

日本国民に「メダルに手が届くかも」という夢を見させてくれた。

ここでは、そんな久保の東京オリンピックでのプレーを総括したいと思う。

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記録

3ゴール1アシスト

グループステージ3試合、準々決勝、準決勝、3位決定戦と全6試合に出場して4つの得点を生み出した。

日本は今大会で全9ゴールを奪ったが、その約半分が久保から生まれている。

特に、グループステージでは重要な局面でゴールをこじ開け、試合展開を決定づけた。

普段サッカーを見ない人も含め多くの人が見るオリンピックという舞台でこうしたことができるのは、天に選ばれた特別な選手であることの証である。

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オリンピックにおける日本人最年少ゴール

オープニングゲームの南アフリカ戦でのゴールは、オリンピックにおける日本人選手史上最年少ゴール記録となった。

久保は現在20歳で次のオリンピックへの出場権を持ち、チーム内でも最年少の部類に入る。

アンダーカテゴリーの大会は肉体的にも精神的にも成長途上の選手が多いため、多くの場合年齢差がパフォーマンス差につながる。オーバーエイジの選手、年齢上限に近い選手が活躍しやすいものである。

その中でこうした結果を出せるというのは能力が突出していることの証である。

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オリンピックにおける日本の最速時間ゴール

グループステージ2戦目のメキシコ戦の先制点は、オリンピックで日本代表が決めたゴールとしては最も早い時間帯でのものとなった。

内容も相手の度肝を抜くほどワールドクラスのゴールであったが、こうした記録に名を連ねることができるのも天に選ばれた選手であることの証であろう。

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オリンピックにおける日本の連続試合ゴール記録

久保はグループステージ3試合で3戦連続でゴールを決めた。

これは日本の選手としてはオリンピックでの最多連続試合ゴール記録となった。(これまでは2試合連続が最多記録であった)

チーム内で最年少の部類に入る選手がこの記録に名を連ねるのはこれまでの日本としては異例である。

彼のチームでの影響力を示しているものでもあり、今大会で日本代表が残した記録としては最も偉大なものであると言っていいだろう。

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プレー内容と評価

※評価にあたっては久保が普段戦う世界最高リーグのレベルを尺度とする。

シュート:◎

2020-2021シーズンにおいて久保が最も苦労したのがこれである。世界最高リーグでは、短い時間でも結果を残すことでキャリアを切り拓いていくことが必要になるが、これがなかなかできなかった。

2019-2020シーズンでの4ゴール4アシストという活躍により、相手の研究も進み、左足を簡単には使わせてもらえなくなった。そしてシュートチャンス自体も作り出せなくなっていた。

しかし、今大会では、この課題に対する答え、成長を間違いなく見せた。

南アフリカ戦でのロッベンのような左足のゴール、メキシコ戦でのモドリッチのようなアウトサイドを使ったゴール、そしてエース然としたフランス戦でのゴール。すべてがクオリティに満ち満ちていた。

そしてもっと評価したいのは、シュート本数がチーム最多で、大会全選手の中でもトップを争う本数であったことだ。

これは、シュートエリアに自身を前進させ、シュートまでいく術を多く見せてくれたことを意味する。

久保のプレーについて今大会最も評価できる部分である。

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ドリブル:△

今大会で久保が相対した選手はは普段久保が相対しているリーガの選手に比べれば決してディフェンスレベルは高くなかったが、国際大会特有のインテンシティの高さ、粘り強さがある相手であり決して簡単ではないレベルである。

そうした中で、ドリブルで抜いていくシーン、ドリブルでチームの攻撃に優位性を生み出すシーンを多く創った。

大いに評価すべきことだろう。

しかし物足りなさが残ったのも正直なところだ。

高温多湿の中での短期決戦であったため、ドリブラーにとっては不利な要素の多い大会ではあったのは事実だが、久保のドリブルレベルであればもう少し抜ききるシーンを見たかった。

アトレティコ戦やバルサ戦で見せたドリブルのように。

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パス:○

今大会は久保のプレーリズムが良かった。シュートとゴールを生み出すプレーができていたことが大きな要因ではあるが、そのおかげでパスも”らしい”質のものが多かった。

久保にしか出せない独特の速いリズムでのパス、小さなコースを通すパス、などが久しぶりに高い頻度で見られた。

実際にフランス戦ではこの独特のリズムのパスから得点が生まれている。

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プレースキック:△

今大会、久保は、すべてのFK、CKを担当した。

チームのファーストキッカーとしての質を見せ、相手に脅威を与えるシーンも多くつくった。

しかし、結果は出せなかった。

そのためこうした評価となる。

久保の左足のキックの質はリーガや欧州の舞台でも見せている通り、最高品質のものである。しかしその品質に比例した結果はここまでのキャリアでは残せていない。

クラブではキッカーを任される機会もまだ少ないため結果を残す確率が減るのもわかるが、今大会ではすべてのキックを任された。

だからこそ、ゴールもアシストもゼロという結果については低評価をつけざるを得ない。

特に南アフリカ戦の直接フリーキックは距離も角度も久保にとっては最高の位置だっただけに決めたかったところだ。

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アイデア:○

日本の崩しの局面はすべて久保のアイデアから始まった。

久保特有のプレーリズムと細かいタッチから繰り出されるパス、ドリブル、シュートは世界でも久保オリジナルのプレーである。似たようなプレーができる選手はバルサの選手、中でもメッシやイニエスタのように久保と同じラ・マシア、カンテラ出身のスペシャルな選手だけである。

それをようやく試合の中で継続的に見せてくれた。

今後もクラブ、代表すべての試合でそうしたプレーを見せてくれることを期待したい。

ファンタジスタ。彼はこの部類に入る選手だからだ。誰もがお金を払ってでも見たいのはこうしたプレーである。

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ポジショニング:◎

これに関しては、全試合ほぼ完璧だった。

彼のポジショニングが、チーム戦術の大きな部分を担っていた。

守備ではチームに適切なゾーン配置を生み出す起点となっていたし、攻撃では味方選手のトライアングルの形成の起点となっていた。

特に攻撃面では久保のポジショニングが日本がどう攻めるかの合図になっていた。

基本ポジションはトップ下だが、戦況を見極め、相手の弱点を見つけ、右に左にと動き、ときにトップに近い位置にも入った。

彼のポジショニングが相手チームのディフェンスに的を絞らせないことにもつながった。

味方選手と久保の間に信頼関係があってこそだが、今大会実感したのは、やはり戦術眼の高い久保をチームの中心に置ければ戦術的なメリットも大きいということだ。

久保のこうした姿をクラブでもフル代表でも見られる日が来ることを願うばかりだ。

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守備:○

これは、スペインに渡ってからの2年間で最も久保が鍛えられた点だ。

コースの切り方、チェイシングの仕方、アタックに行くタイミング、いずれもほぼ完璧だった。

チームのシチュエーションと守備コンセプト、さらには守備時の個性を理解して遂行できるようになっていた。

戦術的な破綻は一切なかった。

さらに攻撃への余力配分もうまくできていた。

今後はより攻撃に力を割くための、”守備時の手の抜き方”をもっと覚えてくれればこれ以上言うことはない。

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総評:○

久保は今大会、日本のベストプレイヤーであり、グループステージの大会MVPであった。

しかし、今大会はあくまでアンダーカテゴリーの大会である。

久保が挑むべきステージは世界のトップレベルである。

少なくとも久保にとっては同年代のワールドクラスが戦うべき相手だ。

今大会に出場しなかったエムバペやハーランドを頂点とした世界のアラウンド20世代の中で覇を競わなければならない選手なのだ。

2020-2021シーズンでは、このアラウンド20世代のセカンドグループとも言うべきリーガの同年代のライバルであるフェリックスやヴィニシウス、ロドリゴ、ファティ、ペドリ、ウーデゴールに一歩離されてしまった。

しかし、今大会でその差を少し縮めることができた。20歳という年齢ならすぐに抜くこともできる距離になった。

特に、久保にとってオリンピックでの3ゴールは大きな財産になったはずだ。(シュート、ゴールの良いイメージを持てたことも久保の今後にとって大きいはずだ。)

チームはメダルという形ある結果を残すことができず、久保も最後は涙を流していたが、久保個人にとっては今後のキャリアに向けて光が見える大会になったことは間違いない。

久保の次なる冒険に期待したい。